現在、10数年ぶりに大阪府のレッドリストの改訂作業が進められています。もちろん鳥類のレッドリストも改訂されます。今回はレッドリスト作成にまつわる話をします。テーマは、大阪で見られるウです。
大阪でウを見たら、ろくに確認もせずカワウと断定。多くの人がそうしていませんか? 川はもちろん海でもウといえばカワウ。どうやら、たいていそれで正解のようなのですが、稀にはウミウもいるかもしれません。
大阪府での確実なウミウの例はとても少なく、『大阪府鳥類目録2001』には、「1988年以降は確実にウミウだという記録はない」と断言してあります(日本野鳥の会大阪支部2002)。2001年以降も大阪府でのウミウの記録は少なく、少なくとも「むくどり通信」にはウミウの記録は出てきません。ただ2011年5月に大阪市此花区夢洲のカワウの集団ねぐらで、ウミウの若鳥2羽が記録されているといいます(高木憲太郎氏私信)。
大阪府に限らなければ、兵庫県では淡路島の大阪湾側でウミウはしばしば記録されており、淡路島の南の沼島では冬期ウミウの大群が見られるといいます(兵庫県1989)。また沼島では以前からウミウ繁殖の可能性が指摘されています。また、大阪湾の南の入口に浮かぶ和歌山県友ヶ島でも、冬期にはウミウが普通に見られます。大阪府でも、もっとウミウの記録があってもよさそうなのです。
関東に目を転じると、外海沿いだけではなく、東京湾の内部でもウミウが記録されています(箕輪・桑原2012)。それどころか、印旛沼や利根川下流部では、内陸にもかかわらずウミウの記録があるといいます(箕輪・桑原2012)。大阪でも、内陸のため池や河川にウミウがやってこないとは限らないのです。
レッドリスト(絶滅の恐れのある種のリスト)を作ろうとする時、しばしば問題になるのは、偶産種(鳥で言えば迷鳥)と希少種の境界です。レッドリストに載せるということは保全対象であるということです。迷鳥を一々保全する必要はないでしょう。しかし、迷鳥も希少種も記録が少ないという点では同じです。
記録が少ない種であっても、迷鳥とされるか、希少種と判断されるかで、扱いは大きく変わります。
『近畿地区 鳥類レッドデータブック』では、「毎年複数個体が生息・渡来・通過する場所を予見できない種」を迷行種(つまり迷鳥)と定義しました。いまのところ、大阪府のウミウは、その記録の少なさから迷鳥と見なさざるを得ません。しかし、兵庫県や和歌山県での記録を見ると、本当に大阪府に来ていないのか大いに疑問です。実は希少種だという可能性がありそうです。
2年前から、大阪湾岸各地で水鳥を調べています。ウミウがいないか注意しているのですが、いまだにウミウを見つけていません。夢洲でも、2011年5月以降、ウミウの記録はありません。やはり大阪湾にウミウがあまりいないのは確かなのでしょう。
でも少数のウミウを見逃している可能性は残っています。 ウを見たらカワウと思って、それ以上詳しく見ていないみなさん、カワウと決めつけるのを止めましょう。もしかしたらウミウかもと思って、じっくり見てみましょう。みんなで注意していたら、意外な大阪湾でのウミウの生息実態が明らかになるかもしれません。
日本野鳥の会大阪支部(2002)大阪府鳥類目録2001.日本野鳥の会大阪支部,大阪.135pp. 兵庫県(1989)兵庫県の鳥類.兵庫県農林水産部林務課,神戸.400pp. 箕輪義隆・桑原和之(2012)千葉県沿岸と利根川下流におけるカワウとウミウの分布.日本鳥学会2012年度大会講演要旨集:181. 江崎保男・和田岳編(2002)近畿地区 鳥類レッドデータブック.京都大学学術出版会,京都.225pp.
和田 岳(わだ たけし):本会幹事、大阪市立自然史博物館学芸員。
HP「和田の鳥小屋」