生まれて1年以内のユリカモメは、嘴や脚が黄色っぽく、尾羽の先に黒い帯、翼の上面に茶色い斑があり、簡単に区別がつきます(図1)。 4月頃、ユリカモメの頭が黒くなる時期にも、幼鳥の頭は黒っぽくなるだけで、普通真っ黒にはなりません。
図1:ユリカモメの幼鳥(左)と成鳥(右)
姿だけでなく、幼鳥は行動も成鳥と少し違います。平田・長谷川(2012)は、パンやスナック菓子などの餌を与えた時に集まった群れと、 餌を与えていない群れの幼鳥の割合を比べて、パンなどに集まった群れに幼鳥の割合が高いことを示しました。つまり、幼鳥の方がパンなどの給餌に熱心に集まってくるようなのです(図2)。 ユリカモメの給餌を観察した事がある人ならご存じでしょうが、給餌が終わった後、いつまでもその場所に留まっているのも、幼鳥が多い傾向があります。
図2:給餌に集まるユリカモメ
平田・長谷川(2012)は、パンなどだけでなく、魚(イカナゴ)を使った給餌実験も行っているのですが、 イカナゴに集まるユリカモメの幼鳥の割合は、給餌を受けていない群れとあまり変わりません。 幼鳥は魚よりも、パンがお好みといったところでしょうか。
和田(1993)は、京都市の鴨川のユリカモメの個体数を、5年間(1984年度〜1988年度)数えました。幼鳥の割合は、渡りの影響のある10〜11月頃や3〜4月には高めになる傾向がありました。 しかし、12〜1月にはおおよそ10%前後と比較的安定していました。
平田・長谷川(2012)は、2005年度と2006年度の12月から1月に、京都市の鴨川で観察・実験を行っています。この時の給餌を受けていないユリカモメの群れの幼鳥の割合もまた10%前後でした。
冒頭のように、2011年12月の大阪府の大和川河口では、幼鳥の割合は約1%でした。今年(2012年)も、11月20日に大和川河口のユリカモメを数えたところ、合計1074羽。その内、幼鳥は12羽だけでした。 幼鳥の割合は1.1%。2011年末と同じ、そしてかつての鴨川より明らかに少ない数字です。
幼鳥の割合はいろんな理由で減る可能性があります。たとえば、成鳥と幼鳥が越冬する地域に変化があって、関西であまり幼鳥が越冬しなくなっただけかもしれません。 それなら、他の場所で幼鳥の割合が上がっているだけの話です。
でも、もしかしたら幼鳥の生産数自体が減っているのかもしれません。つまりユリカモメの繁殖がうまくいっていない可能性です。そうだとすると、ユリカモメ全体の個体数減少に直結します。 これが続くようなら、絶滅の心配すら出てきます。
そんな訳で昨年あたりから、ユリカモメの幼鳥の割合が減って、ユリカモメの減少に直結してるんじゃないかと気になっています。 しかし、しょせん京都市鴨川と大阪の大和川など限られた場所での観察にしか基づいていません。もっと広い範囲で調べてみないと、関西のユリカモメの幼鳥の割合が減っているかすら結論できません。
このままだと、近い将来、ユリカモメが希少種になってしまうかもしれません。あるいはさりげなく、再び幼鳥の割合が増えるのかもしれません。 ユリカモメを見かけたら、ぜひ幼鳥を探してみてください。何羽のユリカモメの中に、幼鳥は何羽混じっていますか? まずはこうした記録を蓄積していくことだと思います。
平田和彦・長谷川美奈子(2012)給餌に集まるユリカモメの年齢構成 餌タイプによる比較:人工餌と魚.大阪市立自然史博物館研究報告,66:9-18. 和田岳 (1993) 京都市賀茂川におけるユリカモメの個体数の季節変化と夏羽への移行. Strix, 12:45-53.
和田 岳(わだ たけし):本会幹事、大阪市立自然史博物館学芸員。
HP「和田の鳥小屋」