その9 ため池で繁殖する鳥カイツブリ

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夏は暑いので水辺の話。ということでため池に目を向けましょう。でも、またもや鳥が減る話になってしまいました。テーマは、ため池で繁殖する鳥、とくにカイツブリに注目してみましょう。

●減りゆくため池

浜島(2001)によると、大阪府には1999年時点で11230ヶ所のため池があり、全国5位の多さです。トップは兵庫県、7位に奈良県、9位に和歌山県。上位は瀬戸内と関西勢が占めます。しかし、ため池の数は急速に減少しています。1979年から1989年の間に、大阪府のため池の数はほぼ半減しました(浜島2001)。  私は大阪市南部から松原市、堺市北東部のため池の水鳥を、1996年から調べています。当初は調査対象のため池は82ヶ所だったのですが、今では72ヶ所に減っています。なくならなくても、真ん中を道路が走ったり、一部が駐車場になったりと、その面積はどんどん減っています。

●カイツブリの減少?

ため池が減れば、当然ながらため池の鳥も減るはずです。代表的なため池の鳥、カイツブリの状況をみてみましょう(図1)。  日本野鳥の会(1999)は、1978年と1998年の緑の国勢調査の結果を並べて、繁殖確実なカイツブリの記録が減少してると指摘しています。その原因は不明ですが、ブラックバスやブルーギルなどの増加にともなう在来魚の減少、アカミミガメの増加の影響の可能性を指摘しています。カイツブリが目立って減少している地域の一つに近畿地方があげられています。まだまだたくさんのため池がある大阪府では、カイツブリが減ったという実感はありません。本当に減ってるんでしょうか?

図1:繁殖中のカイツブリ.この姿もどんどん減少しているのか?

 

●大阪のカイツブリの分布

全国調査の結果には今一つ納得がいきません。しかし、大阪府のため池が減ってるのは間違いなく、カイツブリをはじめとするため池の鳥も減ってるに違いありません。そこで、まずは大阪府のため池で繁殖する鳥の現状を押さえてみようと思い立ち、大阪鳥類研究グループで、2000年にため池調査を行いました(大阪鳥類研究グループ2012)。手分けして調べたため池は、1178ヶ所。全部のため池はとても調べ切れませんが、丘陵から平野の大きめのため池はほぼ調査できました。  調査の結果、ため池で繁殖してた主な水鳥は、カイツブリ、バン、カルガモが御三家。その他にコブハクチョウやアヒル・アイガモ、サギ類、カワウ等の繁殖も確認できました。中でも、カイツブリは一番多くの池で確認されました。減っているのかもしれませんが、まだまだ少なくはないようです。  図2に繁殖期のカイツブリの分布を示します。標高200m以下のため池に広く分布していますが、大阪府南部で多く記録されているのに対して、北摂での記録が少ないようです。

●野外で実際に観察してみよう

大阪府内でも、大和川以南にはまだまだたくさんのため池が残っていますが、北摂の丘陵から平野のため池は市街地化にともなって急速に減少しています。カイツブリは、山間部ではなく、丘陵から平野のため池が主な生息地です。市街地化によるため池の減少は、カイツブリに大きな影響を与えてそうです。でも、ため池が減るだけがカイツブリに影響してるのでしょうか?  長居公園(大阪市東住吉区)には池があり、ハスやスイレンも生えていて、カイツブリが繁殖してもよさそうなのですが、この十数年の間に一度も繁殖した事がありません。桃ヶ池(大阪市阿倍野区)では、10年ほど前まではカイツブリが繁殖していましたが、ここ数年は繁殖していません。ため池があってもカイツブリが繁殖するとは限らないようです。いったい何が影響してるのでしょう?  みなさんの家の近所にはまだため池はありますか? カイツブリは繁殖してるでしょうか? カイツブリの視点で、一度ため池を見直してみてはどうでしょう?

●引用文献

大阪鳥類研究グループ(2012)大阪府のため池に生息する繁殖期の水鳥の分布.自然史研究3(12):167-219. (財)日本野鳥の会(1999)生物多様性調査 鳥類調査 中間報告書.環境庁自然保護局生物多様性センター 浜島繁 (2001)1章 ため池の概観.In「ため池の自然 生き物たちち風景」(浜島繁 ・土山ふみ・近藤繁生・益田芳樹編著、信山社サイテック):3-22.

和田 岳(わだ たけし):本会幹事、大阪市立自然史博物館学芸員。
HP「和田の鳥小屋」