その8 ツバメを呼ぶ方法

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5〜6月頃、博物館にはツバメについての質問がしばしば舞い込みます。ドバドが家に巣をかけると、どうやって追い出したらいいかを訊ねられるのが常ですが、ツバメの場合は逆です。どうしたらカラスに襲われずにヒナが巣立つかといったように、ツバメに好意的な質問が多いのです。
そして毎年あるのが、どうしたら我が家にツバメが巣をつくってくれるかという質問です。この質問の答えを探るべく、今回はツバメの巣を探してみましょう。テーマは、ツバメの巣場所選びです。

●人工物に巣をかける

ツバメの巣は、人家の軒先、駅の構内など我々の生活のさまざまな場所に見られます。そのどれもが人工物につけられていて、人間が建物を建てる以前はいったいどこに巣をつくっていたのか不思議になるくらいです。
ツバメが巣をかける壁の素材などには、多少好みがあるようですが、結局はさまざまな場所に巣をかけています。金井(1964)は変わったツバメの巣場所として、信号機の上、軒先に吊したトウモロコシ、コードの途中などをあげています。
また、金井(1964)は、東京都八王子市で調べた巣の54%が、巣台(ツバメの巣用に人が壁に付けた板)を利用していることを報告しています。巣台の存在は、それなりにツバメの巣を誘致する効果を持ちそうです。

●ツバメは集まって営巣する

商店街を歩いていると、ある一画にはツバメの巣がいっぱいあるのに、少し離れるとあんまりツバメの巣がない事に気づいたことはありませんか? いくつもの巣が集まって繁殖するのを集団営巣、その場所をコロニーと呼びます。一つ一つの巣がバラバラに散らばっている場合は単独営巣です。集団営巣ほど集まってる訳ではないけれど、いくつもの巣がゆるやかに集まっている場合をルースコロニーと呼びます。集団営巣と単独営巣の中間のような、両者が混じったような状態です。

Fujita &Higuchi(2005)は、ツバメが巣をかけそうな建物の分布とツバメの巣の分布を比較して、単独に営巣しているツバメの巣が、少し大きいスケールで見ると、ゆるやかに集まっていることを示しました。ツバメは代表的なルースコロニーの鳥と言われていますが、きちんと示されたのはこれが初めてです。

●人通りが好き?

人家に巣をかけることが多いツバメは、人の活動の近くで営巣することで、カラスなどからの捕食を避けているんじゃないかと、以前からよく言われています。 藤田・樋口(1992)は、石川県で約20年間継続された調査結果を解析し、ツバメが減少した地域では、世帯数も減少していることを示しました。人が減るとツバメも減るようなのです。
川内(1988)は、東京駅周辺のツバメの巣の分布を調べた結果、ツバメの巣があった場所は、一日中人の動きがある場所であると指摘しています。

●野外で実際に観察してみよう

ここまで紹介したツバメの巣場所選びのポイントを要約しましょう。近くに他のツバメが営巣している場所で、人通りが多く、巣台があると、よくツバメは営巣するといったところでしょうか。我が家にツバメの巣を誘致することを考えるなら、そもそも近所でツバメが営巣していないと、なかなか難しいということになりそうです。 もし近所でツバメが営巣しているなら、ツバメが好みそうな場所に巣台を付ければ、我が家で営巣してもらうのも不可能ではなさそうです。しかし、そこから先はまだまだ謎がいっぱいです。
ツバメは人通りの多い場所、一日中人の動きがある場所を好む。というのは経験的には正しそうですが、人の動きをきちんと調べて、ツバメの巣の分布と比べた研究はまだありません。
同じような家が並んでいても、昼間も人がいる家を選ぶのでしょうか?
人の乗降の少ない駅よりも、多い駅にツバメは多いのでしょうか? 
ツバメの巣を見かけたら、こういった視点でどうしてその場所を選んでいるのか考えてみると面白いかもしれません。

●引用文献

金井郁夫(1964)ツバメの巣に関する諸調査.山階鳥類研究所研究報告4(1):31-41.
川内博(1988)東京駅を3km四方におけるツバメの繁殖状況.In「都市に生きる野鳥の生態」(都市鳥研究会):37-40.
藤田剛・樋口広芳(1992)長期間にわたる環境の変化がツバメにあたえる影響.Stix 11:169-177.
Fujita, G. & H.Higuchi(2005)A large-scale clumping pattern in breeding Barn Swallows. Ornithol.Sci. 4:95-98.

和田 岳(わだ たけし):本会幹事、大阪市立自然史博物館学芸員。
HP「和田の鳥小屋」