その7 ヒバリはどこに生き残るのか

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春らしく、ヒバリの囀りの話。ヒバリで思うのは、近頃めっきり声を聞かなくなったこと。今回はヒバリの声を探してみましょう。テーマは、ヒバリの生息環境です。

●農耕地で繁殖する鳥さがし

2011年の5〜 7月は農耕地で繁殖する鳥の分布調査のために、大阪府内の農耕地のあちこちを自転車で走り回りました。大阪で農耕地の鳥と言えば、主なターゲットはもちろんケリとヒバリ。どちらも、農耕地さえあれば どこにでもいそうですが、そうでもありません。そして、面白いことにケリよりもヒバリの方が、生活環境への要求が細かいようです。データを解析せずに語るのはズルイのですが、あえて2点だけ指摘しておきます。 まず標高が高くなるととたんにヒバリはいなくなります。広い田んぼがあるのに、能勢町や豊能町、茨木市や高槻市の山間部にはほとんどヒバリはいません。 もう一つ、狭い田んばにもヒバリはいません。大阪府では、大和川以南にはそこそこまとまった田んぼが残っているのに対して、大和川以北は山間部を除いて、田ん ぼの断片化が進んでいます。住宅地や道路で刻まれて小さくなった田んばでも、ケリはけっこう暮らしています。でも、ヒバリはさっぱり見られません。

●ヒバリは減っているのか?

つまリヒバリが好むのは、平地のまとまった草地。河川敷はともかく平地の農耕地は、大阪府ではどんどん減っています。ヒバリももちろん減っているはず。でも、本 当にヒバリが本当に減っているデータはあるのでしょうか?
日本全体の鳥類の生息状況をまとめて調べたのは、1978年と1998年の緑の国勢調査です。1998年の報告書を見ると、ヒバリについて「(1978年と比べて)繁殖確実 の記録が減り、全体的には2分の1以下に減少した」とあります(日本野鳥の会1999)。その理由として「20年の間に(中略)生息地がかなり減少している可能性があ る」とオ旨摘しています。 大阪の鳥の増減を語るのにはずせない文献は、「大阪の野鳥VoL.6」(日本野鳥の会大阪支部1994)です。大阪府内41ヶ所を1981年度と1992年度に調査した結果をま とめたものです。これを見ると、ヒバリは10年ほどの間に半分以下に劇的に減少しています。

●ヒバリが減ってる理由

ヒバリが減ったのは、ヒバリが暮らせる草地が減ったから、と薄々はみんな分かっているのですが、きちんと分析してそれを示したのが、植田ほか(2005)です。

図1:河川敷でさえずるヒバリ(橋本正弘)図1:河川敷でさえずるヒバリ(橋本正弘)

1970年代と1990年代に東京都で行われた調査結果に基づき、どんな環境にヒバリがよく生息しているかを解析 しました。その結果、畑、草地、水辺の多い地域にヒバリが生息している事を見いだしています。そして、1970年代から1990年代にかけて、その中で畑が減少している ことから、畑の減少がヒバリの減少の原因であると結論しています。

図2:河川敷はヒバリに残された最後の生息環境?

荒木田・三橋(2008)は同じデータの解析をさらに進め、ヒバリの生息地が河川敷と海岸の草地に偏っていることを示し、河川敷の草地環境の保全の必要性を指摘しています。

●野外で実際に観察してみよう

ここで紹介した例は、いずれも1980年前後の調査結果を、その10年後や20年後と比較した結果です。さらに10年以上が過ぎて、ヒバリの減少に歯止めがかかったのでしょうか? 残念ながら、その後のヒバリの増減を調べた結果は公表されていないようです。しかし、多くの研究が指摘しているように、生息環境の減少がヒバリの減少を招いているのなら、少なくとも大阪のヒバリは減り続けているとしか思えません。
このままでは、近い将来、ヒバリは大河川の河川敷にしかおらず、ヒバリの囀りを聞くために、わざわざ淀川に行く時代になるかもしれません。同じことは、ケリやセッカなど草地性の他の鳥にも当てはまります。草地の鳥をどうやって守っていくか。大都市大阪の鳥類相を守る上で大きな課題だと思います。家の近所の畑や田んば、河川敷には、ヒバリはいるでしょうか? まずは注目することから始めてみましょう。

●引用文献

荒本田葉月・三橋弘宗(2008)大都市圏におけるヒバリの繁殖適地と経年変化からみた存続可能性の評価.保全生態学研究13: 225-235。
植田睦之・松野葉月・黒沢令子(2005)東京におけるヒバリの急激な減少とその原因.Bird Research l:Al A8.(財)日本野鳥の会(1999)生物多様性調査 鳥類調査 中間 報告書.環境庁自然保護局生物多様性センター.
日本野鳥の会大阪支部(1994)大阪の野鳥VOL.6.大阪府農林水産部緑の環境整備室.

和田 岳(わだ たけし):本会幹事、大阪市立自然史博物館学芸員。
HP「和田の鳥小屋」