今年は異常にツグミが少ない?

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冬鳥の季節になりました。この冬はツグミが少ない、と思っている方も多いのではないでしょうか。今回は、大阪に渡ってくるツグミの個体数について考えてみましょう。テーマは、ツグミと果実の豊凶の関係です。

●この冬はツグミが異常に少ない?

大阪府では、11月半ばにもなれば普通にツグミが見られるというイメージがあります。しかしこの秋、長居公園では11月末になってようやくツグミの姿を見かけるようになりましたが、せいぜい数羽程度。12月初めの時点で、ツグミの大きな群れは確認していません。  この冬はツグミが少ないという声は、大阪府のみならず、関西のあちこち、東日本からも聞こえてきます。  それでは、12月になってもツグミの姿をあまり見ないのは、異常なのでしょうか? 過去に似たような事がなかったかを検討してみたいと思います。  図2に1994年度から1998年度のツグミの個体数の季節変化を示しました。11月から12月にたくさんのツグミが記録されている年度と、ほとんどツグミが記録されていない年度があります。過去にも11月から12月にツグミがあまりいない年度があったことが分かります。程度の差はあるのですが、近年では2005年度や2009年度も秋から初冬にツグミがほとんど見られませんでした。  1995年度や1997年度は、長居公園だけでなく大阪府一円どころか日本全国でツグミが少ないと話題になっていました。当時も異常だという声があちこちで聞かれました。しかし、こんなに頻繁にあることから分かるように、決して異常な出来事ではないようです。  この文章を書いてるのは2011年12月の始め。ここでちょっとだけ予測をしてみます。図2をよく見ると、12月までツグミが少なくても、年が明けるとツグミの個体数は増えはじめ、3月頃には多数のツグミが記録されています。今年度も、1月から2月、遅くとも3月には、ツグミが普通に見られるでしょう。当たれば、この冬のツグミは過去と同じ一つのパターンに従っているだけになります。はたして当たるのでしょうか?

●果実の豊凶とツグミの関係

それでは、秋にツグミが数多く記録される年と、ほとんどツグミが記録されない年では、何が違うのでしょう?  松岡(1984)は、積雪とツグミの個体数の関係を報告しています。ただし、これは秋の渡来数ではなく、いったん渡ってきたツグミが、積雪が多いとどこかに行ってしまうという報告です。  長居公園での観察では、秋のツグミの渡来数は、果実の豊凶と関係あるのではないかという結果が出ています。図2で、11月から12月にツグミが記録されていない年は、いずれも果実が豊作の年でした。同じく秋から初冬にツグミがほとんど見られなかった2005年度や2009年度も、果実は豊作でした。今年もやはり、秋から冬に熟す液果が豊作です。庭先のピラカンサやナンテンには、とても沢山の果実が真っ赤に実っています。郊外に行けば、カキの実がたわわに実っているのが見られます。  果実の豊凶と、秋のツグミの渡来に関係がありそうですが、どうしてそうなっているのか、じゃあツグミはどこにいるのか、詳しいことはまだ分かっていません。ツグミの渡来数を左右する原因はまだまだ研究が必要です。

●野外で実際に観察してみよう

1997年の秋、今年はツグミが異常に少ない!という声を聞いて、2年前も少なかったのに、と思ったものです。人は2年前の事はあまり覚えていないようです。  ツグミが毎年いつ頃やって来たのかは、ツグミを見たかどうかを日記のように記録しておけば、すぐに分かるはずです。多かったかどうか、群れを見たかどうかまで記録しておけば、後からさらに詳しく検討できます。ツグミに限らず、身近な鳥の記録をこまめにつけるのは、とても大切な事で、後から色々役立ちます。今年からは、バードウォッチングに出かけた日だけでなく、日常に観察した鳥の記録をこまめにつけてみませんか?

●引用文献

松岡茂(1984)異常寒波とツグミの越冬数.Strix 3:36-39.

和田 岳(わだ たけし):本会幹事、大阪市立自然史博物館学芸員。
HP「和田の鳥小屋」