その5  果実を食べるのは誰?

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秋が深まり、秋冬物の樹木の果実も一通り熟してきました。今回は都市公園の木になっている果実を見てみましょう。テーマは、果実と鳥の関係です。

●鳥が運ぶタネ

木の実は、タネを拡がらせるための仕掛けをいろいろ備えています。風に運んでもらう実には、風に飛ばされやすい仕掛け。タネの周りに付いている果肉は、動物にタネを運ばせる仕掛けです。果実を好んで食べる動物の多くは、果実を呑み込んでも、柔らかい果肉だけ消化して、堅い殻に包まれたタネは壊さずに排出します。消化管を通っている間に動物が移動してくれれば、タネも移動できることになります。植物からすると、タネを運んでもらう代わりに、美味しい果肉を提供しているようなものです。このようにタネを運んでくれる動物を種子散布者といいます。よく果実を食べているのを目にするヒヨドリ、ムクドリ、ツグミ類などは種子散布者です。一方、キジバトなどのハト類は、果実を呑み込んだら、タネまで消化してしまい、タネを運んでくれません。他に、カモ類、キジ類、アトリ類などもタネまで消化するグループです。こうした鳥は種子捕食者と呼ばれます。

●果実の色と鳥

果実の色もまた、種子散布者にアピールしてタネを運んでもらうための仕掛けです。公園の木になっている果実の色は何色が多いでしょう。鳥が食べる果実の色は圧倒的に赤か黒が多いという報告があります(中西1999)。これは、視覚で食べ物を探す鳥に対して、植物が見つけてもらいやすい色を付けていると考えられています。イチョウやセンダンの実は黄色っぽいという反論があるかもしれません。イチョウやセンダンは、鳥が食べてタネを運ぶこともありますが、タヌキなどの哺乳類も重要な種子散布者です。哺乳類は、視覚よりは嗅覚などで食べ物を探すので色はあまり関係ないのかもしれません。赤はともかく黒はあまり目立たないという反論もありそうです。近年、こうした黒い果実が紫外線を反射することが分かってきました。多くの鳥は、我々哺乳類と違って紫外線反射が見えます。葉っぱは紫外線を反射しないので、葉っぱの中の黒い果実は、鳥にはとても目立つのです。哺乳類には目立たず、鳥には目立つ。これは、鳥だけに果実を食べてもらいたいなら理想的でしょう。

図1:クスノキの黒い果実.紫外線反射が見えれば、この果実が目立って見えるはず.

●ナンキンハゼの実を食べる鳥

それじゃあ、どんな鳥が実を食べてるのでしょう。一つの例としてナンキンハゼをみてみます。橋口・上田(1990)は、高槻市や豊中市などのムクドリの塒前集合に使われている鉄塔の下で、ムクドリのペリットを集めて、どんなタネが入っているか調べました。その結果、約半分がナンキンハゼだったという結果を報告しています。上田・福居(1992)は、吹田市のカラスの集団塒に落ちているペリットや糞の中に、多くのナンキンハゼのタネが入っていたことを報告しています。それじゃあ、ナンキンハゼの実は、主にムクドリやカラスに食べられてるかというと、話はそう簡単ではありません。私が大阪市の長居公園で観察した結果では、ナンキンハゼの実を一番食べていたのは、ハシブトガラスとキジバトでした。カラスは種子散布者ですが、ハトは種子捕食者です。カラスに食べられるかハトに食われるかでは、ナンキンハゼにとっては大違いです。このように、実がどんな鳥に食べられたかは、植物にとってはとても重要です。しかし、日本の多くの木では、実が誰に食べられているのかほとんど分かっていません。

●野外で実際に観察してみよう

分かってないということは、ちょっとした観察でも新知見の可能性があるということです。ナンキンハゼでもなんでもかまいません。近所の木に、どんな鳥が実を食べに来ているでしょう? どんな鳥が食べに来ていたかを、こまめに記録していけば思わぬ発見ができるかもしれません。発見はなくても鳥たちの食事風景を見るのは楽しいものです。この秋冬はぜひ果実を食べに来ている鳥を見てみましょう。

図2:ナンキンハゼの実を食べに来たキジバト.

●引用文献

上田恵介・福居信幸(1992)果実食者としてのカラス類:ウルシ属に対する選好性.日本鳥学会誌40:67-74. 中西弘樹(1999)鳥散布果実の色と大きさ.In『種子散布 助けあいの進化論1』(築地書館):41-49. 橋口大輔・上田恵介(1990)果実食者としてのムクドリ?“ペリット”分析の有効性?.Strix:55-61.

和田 岳(わだ たけし):本会幹事、大阪市立自然史博物館学芸員。
HP「和田の鳥小屋」