その4 窓ガラスに衝突する鳥

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秋の渡りの季節です。この時期に増えるのは窓ガラスに衝突する鳥。今回は街中に落ちてる鳥の死体に目を向けます。テーマは、窓ガラスに衝突する鳥の傾向です。

●街中で鳥の死体を見かける?

街中に落ちてる鳥の死体と言われても、死体なんか見た覚えがない人も多いかもしれません。でも、街中にはたくさんの鳥の死体が落ちます。ただ、目立つ場所に落ちた死体は、驚くほど素早くゴミとして処理されます。 博物館では標本の収集のために、あちこちで鳥の死体を送って下さいと頼んでいます。すると、色んな方から、鳥の死体を届けて頂けます。その中には、都心のビル街や学校など、街中で拾われたものがたくさんあります。そうした死体を解剖すると、たいてい頭から出血しています。窓ガラスに衝突して死んだと考えられるのです。

●窓ガラスに衝突する鳥の傾向

図1は、大阪市立自然史博物館の窓ガラスに衝突して死んだ鳥を集計したものです(和田1995)。この結果をはじめ、窓ガラスに衝突する鳥には、二つの傾向があります。秋の渡りの時期に多くの鳥が衝突することと、よく衝突している鳥の多くが幼鳥という事です(図1、柳川・澁谷2000)。 衝突死している種を見ても、大阪市内ではシロハラやキビタキなど、留鳥ではなく、渡ってきた鳥が大半です。実際のところ、キジバトを例外としますが、留鳥はあまり窓ガラスに衝突しません。あれほどたくさんいるのにヒヨドリの衝突死はかなり稀です。どうやら、飛び方や旋回能力も関係ありそうです。が、その場所に馴染みの少ない渡りの途中に立ち寄った鳥や、経験値の低い幼鳥が衝突しやすい傾向があるんじゃないかと思います。

●窓ガラスに衝突死する鳥はどのくらい?

昨年から、大阪市内中心部のとあるビルの窓ガラスに衝突死した鳥の死体を、博物館に寄贈して頂けるようになりました。衝突死したすべての鳥が拾われている訳ではないと思うのですが、それでも2010年度に寄贈頂いた鳥の死体は、33羽にのぼります。一つのビルだけで33羽。都心部のたくさんのビルのたくさんの窓ガラスを考えると、その合計は莫大な数に上ることでしょう。日本全体を考えると、いったいどうなるのでしょう?

図1:大阪市立自然史博物館に衝突死した鳥.1974年から1995年に回収された死体の記録に基づく.

いつ何が原因で死ぬかは、生物の暮らしを考える上で、とても重要な要素です。都市の窓ガラスは、多くの渡り鳥の(とくに幼鳥の)大きな死亡要因になっていそうです。しかし日本できちんと調べられたことがありません。

●野外で実際に観察してみよう

海岸で、水鳥がテグスに絡まって死ぬことは、よく問題になります。釣り人にマナーを呼び掛け、テグスを拾う活動が行われています。これはテグスに絡まった可哀想な鳥を見る機会が多いからではないかと思います。 窓ガラスに衝突して死ぬ鳥は、テグスに絡まる以上に多いかもしれません。しかし、ビルの建設業者に窓ガラスの改善を呼び掛ける動きは聞いたことがありません。窓ガラスにバードセーバーを貼ったり、防鳥ネットを張るケースもありますが、膨大な量の窓ガラスに対して根本的な対策にはならないでしょう。 窓ガラスへの鳥の衝突死があまり問題視されないのは、死んだ鳥をあまり見かけないから、衝突死についての情報が少ないからではないでしょうか? どれだけ多くの鳥が窓ガラスで衝突死しているかの情報を蓄積しないと、この状況は改善されないように思っています。 学校や都心のビルなど、窓ガラスがたくさんある建物の下に鳥の死体が落ちていないか注意してみましょう。すぐに掃除されるので、早朝のチェックがお薦めです。死体を見つけたら、見つけた日と種類、個体数、できれば性別・年齢を記録しましょう。可能なら、死体を標本として残しましょう。そうした記録の蓄積が、いつか都市における鳥の大きな死亡原因を減らすのに役立つかもしれません。

図2:窓ガラスに衝突してまだボンヤリしているカワセミ.この個体はこの後無事に飛んでいったが、ボンヤリしている間にカラスやネコにやられる事も多いだろう.

●引用文献

柳川久・澁谷辰生(2000)北海道十勝地方の2つの小学校における鳥類のガラス衝突死.Strix 18:79-87. 和田岳(1995)窓ガラスにぶつかった鳥.Nature Study 41:129-130.

和田 岳(わだ たけし):本会幹事、大阪市立自然史博物館学芸員。
HP「和田の鳥小屋」