第2回 スズメは減っているの?

 春の渡りも一段落。街中の公園で見られる鳥の種類は減ってしまいましたが、身近な鳥の繁殖に注目するなら、余計な鳥がいなくなってベストシーズン。今回はスズメの繁殖を見てみましょう。テーマは、スズメが減少しているかどうかです。

●スズメが減ってる?

 ここ2年ほど、スズメが減っているという話題がマスコミで、しばしば取り上げられています。しかし、マスコミの報道は、必ずしも正確ではありません。スズメの減少について注目が集まったきっかけは、三上(2009b)という論文です。この論文は、いくつかのデータから、スズメが減少している可能性を指摘しています。スズメが減少しているらしいとするローカルな観察に基づく記述(秋田県大潟村、沖縄県大宜味村、奈良県斑鳩町の3ヶ所)、及び農作物被害と有害鳥獣駆除数の減少。この2つはせいぜい状況証拠でしかありません。より直接的なデータは次の3つです。まずは、東京都東久留米市で35年間にわたって続けられたバードセンサス調査の結果です(内田ほか2003)。その結果のグラフからは、スズメの個体数の減少が、明確に見てとれます。次は、北海道の市街地のスズメの個体数を1991〜2004年と2006年で比べたものです(藤巻・一北2007)。17ヶ所で調べて、14ヶ所でスズメの個体数が減少していました。最後は、環境省(環境庁)が、1974〜1978年と1997〜2002年に行った鳥類繁殖分布調査です。日本全体を約20×20kmのメッシュに分けて鳥の繁殖分布を調べた結果、スズメが記録されたメッシュはほぼ減少していませんでしたが、確実に繁殖していると評価されたメッシュは減少していました。結局のところ、三上(2009b)がすっきりとスズメの減少を示したのは、内田ほか(2003)と藤巻・一北(2007)というローカルな観察結果だけです。普通種であるはずのスズメが日本全体で減っているかも知れないという問題提起は、とても重要です。しかし、日本全体でのスズメの減少は、充分には示されていません。三上(2009b)は、1960年頃から2008年の間に、スズメの個体数は10%程度にまで減少したと推定しています。これがマスコミで盛んに取り上げられていますが、それはいくつもの仮定をおいての計算結果です。スズメが1/10にまで減った!と断言まではできません。

図 スズメの巣立ちビナ (松井譲友)

●でもやっぱりスズメは減ってそう
  じゃあ、スズメは減ってないのかと言えば、減ってる可能性が高そうです。三上(2009b)は、いくつものデータがいずれもスズメが減っている事を示唆していることを示しました。なにより私を含め、多くの人がスズメが減ったという印象を持っているのではないでしょうか?
  ヨーロッパでは、日本のスズメと同じように普通種であったイエスズメの減少が知られています(Summers-Smith 2003)。とくに都市部ではほぼ姿を消してしまった場所もあるといいます。減ったとは言っても、日本のスズメはまだたくさんいます。でも、放っておくと、イエスズメのように姿を消していってしまうかもしれません。急いでスズメの状況を把握して、どうして減っているのかを明らかにする必要があります。

●どうしてスズメは減ってるの?
  スズメの減少の原因として、水田や草原などの減少による食べ物の減少、営巣場所として適している木造建築の減少、カラス等による捕食圧の増加など、様々に推測されていますが、結局のところはよくわかっていません。その中で、三上(2009a)は、成鳥が連れている巣立ちビナの数を調べて、都市よりも農村の方が巣立ちビナが多いことを見いだしました。これはどうしてスズメが減っているかを考える上で、何かを示していそうです。スズメの繁殖に何かが起きているようなのです。

●野外で実際に観察してみよう
  スズメの減少は、まだ続いていそうです。だとしたら、今から調べはじめても間に合います。家の近所のスズメが減っているかどうかはすぐ調べられます。巣が減ったのか、巣立ちビナ数が減ったのか。それがわかれば、どうしてスズメが減っているかをさらに一歩進めて考えることができます。今年から近所のスズメの繁殖を、よく観察して、記録してみてはどうでしょう?

●引用文献

内田康夫・島津秀康・関本兼曜(2003)都下自由学園周辺の鳥相変化と環境変動−長期羽数調査の統計分析から−.Strix 21:53-70.
Summers-Smith, J.D.(2003)The decline of the House Sparrow: a review. British Birds 96:439-446.
三上 修(2009a)スズメはなぜ減少しているのか? 都市部における幼鳥個体数の少なさからの考察.Bird Research 5:A1-A8.
三上 修(2009b)日本におけるスズメの個体数減少の実態.日本鳥学会誌58(2):161-170.
藤巻裕蔵0-北香織(2007)Jヒ海道市街地におけるスズメPasser montanus生息数の動向.山階鳥類学雑誌38:104-107.

和田 岳(わだ たけし):本会幹事、大阪市立自然史博 物館学芸員。
HP「和田の鳥小屋」