暑い季節は、夕涼みを兼ねて見に行ける鳥のねぐら観 察が一番。今回見るのはツバメのねぐら。テーマは、ツ バメがどこで寝るかです。
多くの人にとって馴染み深いツバメの姿は、軒先で営巣している光景です。巣に乗っていたり、近所を飛びまわっていたり。そんな人を、ツバメの集団ねぐらの観察に連れていくと、とても感激してもらえます。数千〜数 万羽のツバメが大群で飛びまわる光景は、毎年見に行っても感激するので、初めて見るならなおさらでしょう。営巣中のツバメは、集団にならずに巣の近くで寝ます。普通はメスが巣で寝て、オスは巣の近くで寝ます (Cramp et al.1988)。しかし、ツバメは基本的に集まって寝る鳥で、営巣中がむしろ例外なのです。春、南から渡ってきたツバメは、春ねぐらと呼ばれる小規模の集団ねぐらをつくって寝ます(須川1999)。営巣を始めるとこの春ねぐらは解消されます(ただしCramp et al.(1988)によると非繁殖個体が引き続き小集団で寝ることがあるといいます)。営巣が終わると、ツバメは再び、集団ねぐらをつくります。6月にもなると最初の繁殖で巣立ったヒナを中心に、各地に小規模の集団ねぐらができます。それがやがて集まって、我々が観察に行くような大規模な集団ねぐらになっていきます。この大規模な集団ねぐらは、ツバメが南に渡るにつれて規模が小さくなり、9月中にはなくなるのが普通です。南へ渡っていったツバメたちは、南の国でも集団で眠ります。繁殖地よりも越冬地での方が、集団ねぐらの規模は大きくなる傾向があるようです。たとえば、ヨーロッパで繁殖したツバメが越冬するアフリカでは、数十万羽規模の集団ねぐらも記録されています(Cramp et al.1988)。
須川(1999)は、1998年までに近畿地方で記録されたツバメの集団ねぐら地47ヶ所をまとめています。それに よると、集団ねぐらができていた場所は、ため池16ヶ所、河川敷15ヶ所、休耕田7ヶ所、湖岸・内湖4ヶ所、その他 5ヶ所と様々です。しかし、その環境は確認された限りすべてヨシ原でした(セイタカヨシ2ヶ所を含む)。この ように、日本でのツバメの集団ねぐらは、一般的にヨシ原に形成されるものなのです。
しかし、越冬地ではヨシ原だけでなく、さまざまなタイプの草地にツバメの集団ねぐらが形成されます(Cramp et al.1988)。また、東南アジアでは街路樹や電線に、大規模な集団ねぐらができることが知られています。日本でも、ツバメの集団ねぐらがヨシ原以外にできる例が以前から知られています。一番有名なのは、広島県廿日市の電線ねぐらです(日本野鳥の会広島県支部1998)。近年、近畿地方でも電線や街路樹などに形成されるツバメの集団ねぐらが報告されるようになっています。駅前の人通りの多い場所が、よく選ばれているようです。規模は数十羽から500羽程度と小さめです。こうした小規模の集団ねぐらは、目立ちにくいので見逃しやすいと思われます。もしかしたら、小規模の電線や街路樹のねぐらは、もっとあちこちにあるのかもしれません。
ツバメがどこで寝ているのかは、まだまだ謎がいっぱいです。大阪でできる大規模な集団ねぐらの位置はほぼ 把握されていますが、春ねぐらなど小規模の集団ねぐらは、ほとんど把握されていません。夕方、近所にツバメが集まって飛びまわっている場所はないでしょうか?電線に集まっていないでしょうか?もしそんな場所があったら、そこで寝ていないか暗くなるまで観察してみましょう。意外と近所の電線でツバメが集団で寝ているかもしれません。
Cramp et al.(1988)Handbook of the Birds of Europe,theW[iddle East andNorth Africa:The Birds of the WesternPalearctic.vo1 5.OxfordUniversity Press, New York.
須川恒(1999)ツバメの集団峙地となるヨシ原の重要性.関西自然保護機構21(2):187-200.
日本野鳥の会広島県支部(1998)ひろしま野鳥図鑑.中国新聞社,広島.
和田 岳(わだ たけし):本会幹事、大阪市立自然史博物館学芸員。
HP「和田の鳥小屋」