第1回 サクラの花に来る鳥たち

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 写真を撮ったり、ライフリストを増やしたり、鳥仲間と話をしたり。鳥の楽しみ方はいろいろあります。このコーナーではちょっとマイナーな楽しみ方を提案してみようと思います。それは鳥の暮らしを考えるというものです。

ちょっとした予備知識を持って、鳥の行動を見れば、鳥の暮らしがいろいろと見えてきます。大阪で身近に普通に見られる鳥たちを題材に、テーマを持って鳥を観察してみましょう(図1)。

 最初に見るのは、サクラの花に来る鳥。テーマはスズメとサクラの花の関係です。

●サクラの花の蜜を吸う鳥、盗む鳥

 大阪の鳥で、花との関わりが深いのはヒヨドリとメジロです。この2種は、長い舌の先が筆先のように、いくつもに分かれていて、花の蜜をなめやすくっています。こうした鳥は蜜をなめる代わりに、花粉を運びます。

 一方、スズメをはじめとする他の鳥は、舌の先に蜜をしみ込ませる構造がありません。蜜をなめたいと思っても、効率よくなめる事ができません(図2)。

図2 メジロとスズメの舌先の比較 (納家 仁)

 

  そこでスズメは、裏技を編み出しました。花の外から蜜のある萼筒の部分を噛むのです。噛んで、サクラの花をちぎり、蜜をなめて花を落とします。スズメに落とされたサクラの花をよく見ると、いずれも蜜のある辺りでちぎられているのがわかります(図2)。

この行動は、花粉を運ばずに蜜だけ得ているという意味で、盗蜜と呼ばれます。

図3 スズメに落とされたサクラの花(橋本正弘)

●スズメのサクラの花の関係の歴史

 スズメが盗蜜した結果、サクラの木の下に、花びらではなく、花がまること散乱している風景は、今では珍しくなくなりました。この行動は1980年代後半に最初に注目を集めました。唐沢・井田(1988)は、アンケート調査を行い、その頃すでに岩手県から宮崎県までの日本各地でスズメの盗蜜が観察されていることを明らかにしました。さらに北海道でも確認され、沖縄県でも盗蜜の可能性があるとしています(唐沢1991)。

 

唐沢(1991)は、江戸時代中期の絵にもスズメがヤマザクラの花をつつくシーンが描かれていることから、江戸時代からすでにスズメの盗蜜はあったのではないかと推測しています。

三上・三上(2011)は、江戸からはじまって日本各地で花見が流行した18〜19世紀に、日本各地に多くのサクラが植えられ、その頃からスズメとサクラの花が接する機会が増たはずだと指摘しています。

図1サクラとスズメ (橋本正弘)

●スズメの盗蜜行動の影響?

 サクラの側からすると、スズメの盗蜜は大迷惑です。

花粉を運んでくれる報酬として提供している蜜を、花粉も運ばずに横取りされるのみならず、花自体を落とされるので、実が出来る可能性をむしろ減らされています(ソメイヨシノはそもそもほとんど結実しませんが…)。

ヒヨドリやメジロからしても、花を落とされると、蜜源が減るので迷惑です。  と書くと、ヒヨドリやメジロに対して、スズメは悪い奴に思えます。

しかし、メジロも小笠原ではハイビスカスなどの花から盗蜜することが知られています(上田・長野1991)。

メジロがサクラの花の盗蜜をしないのは、単に普通に蜜をなめる方が簡単だからなのでしょう。

●野外で実際に観察してみよう

 上にあげたヒヨドリ、メジロ、スズメ以外にも、コゲラ(土橋1994)、イカル(土橋1994)、ドバト、シジュウカラ(今村・井田1987)などさまざまな鳥がサクラの花にやってきます。

蜜を吸うもの、花を食べるもの、盗蜜をするもの。その目的はさまざまです。サクラの花で鳥が何をやっているか、一度よく観察してみてはどうでしょう。

●引用文献

今村知子・井田俊明(1987)サクラの花を採食する鳥類.応用鳥学集報 7:61-64.
上田恵介・長野康之(1991)ハイビスカスHibiscus cvs.の花から盗蜜する小笠原のメジロZosterops japonica.Strix 10:63-72.
金本調作(1990)桜花を食べるイカル.Urban Birds 7:13.
唐沢孝一(1991)桜花を食べるスズメの生態(III).Urban Birds 8:38-41.
唐沢孝一・井田俊明(1988)桜花を食べるスズメの生態(II報).Urban Birds 5:44-54.
土橋信夫(1994)サクラの花の蜜を吸うコゲラ.Urban Birds 11:84. 三上 修・三上かつら(2011)スズメの盗蜜によるサクラへの害を定量化する方法.Bird Research 6:T11-T21.

和田 岳(わだ たけし):本会幹事、大阪市立自然史博 物館学芸員。
HP「和田の鳥小屋」