秋冬物の樹木の果実が、そろそろ熟しはじめています。 そこで今回は果実とそれを食べる鳥を見てみましょう。 テーマは、果実の熟期と秋の渡り鳥の関係です。
西日本で春から夏に熟す果実が、サクラやヤマモモ、 タブノキなどに限られるのに対して、秋から冬にはさま ざまな樹木の果実が熟します。どうして、秋から冬に熟 す果実が多いのでしょう? それは、果実を食べる動物、 とくに果実食の鳥類が秋から冬に多いからという考えが あります(野間1999)。
繁殖期には昆虫食で、非繁殖期(つまり秋から冬)に は果実食という鳥はけっこういます。また渡りという季節移動があります。西日本で果実食鳥と言えば、ハト科、 カラス科、 ヒヨドリ科、 メジロ科、 レンジャク科、 ムク ドリ科、ヒタキ科など。この中には渡り鳥が少なくなく、 その多くは西日本では旅鳥や冬鳥です。また留鳥であっ ても、ヒヨドリやメジロなどは秋から冬に個体数が増え ます。確かに秋から冬に果実を食べる.鳥は増えそうです。
熟期と鳥の渡りの間に対応関係があることは、北アメ リカやヨーロッパなどで以前から指摘されていました。 Noma&Yumoto(1997)は、屋久島での液果の熟期 が、ヒヨドリ、メジロ、シロハラなど果実食.鳥類の個体 数の季節変化(秋から冬に増加)と相関があることを示 しました。それに基づき、り鳥の渡来に合わせて、熟 期が決まるという議論を展開しています。
現在相関関係があるからと言って、進化上の因果関係 があるとは限らず、この議論はけっこう大胆だと思いま すが、この説に乗ってみましょう。その上で、果実と果実食鳥類をもう少し細かく見たらどうなるか。9月だけ に注目してみましょう。
秋から冬に熟すと言っても、樹種によって少しタイミ
ングは異なります。多くの樹種が10月以降に熟すのに対
して、クマノミズキやアカメガシワは9月に熟します。
一方、果実食鳥の渡りのタイミングも種によってさま
ざま。ヒヨドリやメジロの個体数が増えるのは10月頃以
降。大型ツグミ類の渡来は10月後半以降。 9月によく渡
る果実食鳥といえばヒタキ類。果実食鳥類の渡りに合わせて、果実が熟すのであれば、西日本で9月に熟す果実
には、ヒタキ類が重要なのかもしれません。
図1:クマノミズキの果実を食べるマミジロ♂幼鳥(松井謙友)
9月に熟すクマノミズキやアカメガシワの果実は小さ く、ヒタキ類が食べるのに適しているように思えます。 では、本当に9月の果実はヒタキ類がよく食べているの でしょうか?
濱田ら(2007)は、滋賀県でクマノミズキの果実を食べる鳥を調べ、ヒタキ類も食べてはいるが、ヒヨドリやカラス類といった留鳥が主に食べていた事を報告してい
ます。
アカメガシワについては、高知県で調べた佐藤。酒井(2005)が、75%はヒタキ類に食べられたと推定しまし
た。一方、静岡県では、おもにカラス類が食べている事
が報告されています(吉野・藤原2004)。西表島のアカ
メガシワは、ヒヨドリ、メジロなどの留鳥に食べられて
いました(上田2005)。
ヒタキ類も関係ありそうですが、カラスやヒヨドリ、
メジロの方が重要な場合が多いようです。ヒタキ類に頼
るために、9月に熟してるんじゃないのでしょうか?
9月に熟す果実はヒタキ狙い、というのは私の妄想で
すが、まったく有り得ない訳でもないと思っています。
そして、渡り途中のヒタキ類が、果実をよく食べるのは
事実。ヒタキ類がどんな果実を食べているのかを調べれ
ば、熟期と,鳥の渡りの関係に新たな光を当てられるかもl
この秋はぜひヒタキ類の果実食を見てみましょう。
図2:アカメガシワの実(平軍二)
上田恵介(2005)西表島のアカメガシワMallotus japonicus果実を採食す
る鳥. 山階鳥類学雑誌36:133-135
佐藤重穂・酒井敦(2005)針葉樹人工林におけるアカメガシワの種子散布者としての鳥類.日本鳥学会誌54:23‐ 28
野間直彦(1999)鳥とけものがつくる照葉樹林 動物による種子散布の
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吉野知明・藤原一絵(2004),排泄物分析に基づくカラス類Corvus spp.のアカメガシワたMallotus japonicus種子の利用と消化状況.山階鳥類学雑
誌3611-13
和田 岳(わだ たけし):本会幹事、大阪市立自然史博物館学芸員。
HP「和田の鳥小屋」