大阪市立自然史博物館では2013年夏、大阪湾をテーマにした特別展を開催します。それを目指してここ3年、 カモメ類を中心に大阪湾岸の海鳥を調べてきました。そこで今回は、大阪湾のカモメ類に注目してみます。テーマは夏のウミネコです。
今のところ、大阪湾で繁殖しているカモメ類はいませ
ん。繁殖はしていないのですが、なぜか夏の大阪湾でカ
モメ類が見られます。
たとえば、少数ではありますが、ユリカモメはほぼ毎年6〜 8月に観察例があります。ユリカモメの日本での越夏というのはさほど珍しくなく、大阪湾以外でも各地で観察されています。たとえば、1992年から1994年にか
けての千葉県船橋市の埠頭での調査では、7月以外のすべ
ての月にユリカモメが記録されています(桑原ほか1994)。
ユリカモメは越夏すると言っても冬の方が多いのです
が、ウミネコ(図1)は、むしろ夏の方が多くなること
があります。大和川河口で、水鳥の数を数えていると、
ウミネコは、夏から秋に多く、冬にはいなくなります
(図2)。まるで夏鳥のようです。
東京湾の湾奥部(船橋:桑原ほか1994)や湾□部(木更津-川崎航路:箕輪ほか1999)での水鳥調査でも、ウミ
ネコは夏から秋に多いといいます。東京湾でウミネコは
繁殖していないのに(当時)、これまた夏鳥のようです。
図1:ウミネコ 夏期に大きな群れが見られる。
2012年7月大津川:河口(納家 仁)
大和川河口での調査から、冬になると大阪湾からウミ
ネコはいなくなるんだと思い込んでいました。しかし、泉南地域で鳥を見てる方はよくご存じの通り、泉南地域
や淡路島南部には冬でもウミネコがいます。大阪湾のウ
ミネコはいったいどうなっているのでしょう?
大阪湾内でのウミネコなど水鳥の動きを知るために、
2010年9月から毎月1回、大阪湾岸40ヶ所の水鳥のカウ
ントを行っています。今まで分かってきたところによる
と、大阪湾全体のウミネコは7月〜12月に多く、冬に減
ります(一番少ないのは5〜 6月です)。ただ、湾奥部
(神戸市〜大阪市)と湾口部(泉南地域と洲本市)では
パターンが少し違います。湾奥部では11月〜5月にはほぼ姿を消すのに対して、湾口部では11月以降、個体数は
減るのですが、春までウミネコが見られます。
ともかく、夏の大阪湾にウミネコがたくさんいるのは
確かです。同じく夏にウミネコがたくさんいる東京湾で
は面白いことが起こっています。東京上野の不忍池周辺
では、2000年代以降ウミネコの繁殖が確認されているの
です(松丸・渡辺2011)。その営巣場所は、ビルの屋上や、池の島の地上。
カモメ類が市街地の建物で繁殖すること自体は、必ず
しも珍しくありません。北海道では、以前から突堤や倉庫の屋根など人工物でオオセグロカモメが繁殖していま
したが、近年、札幌のビルの屋上でのオオセグロカモメ
の繁殖が知られています。
海岸の岩場などで繁殖するイメージが強いカモメ類ですが、意外と人工物で営巣し、都市鳥になる素質を秘め
ているようです。これなら今後、大阪でもウミネコが繁
殖するようになるかもしれません。
現在、大阪湾から一番近いウミネコの繁殖地は、和歌山県にあります。しかし、東京での例を見ると、大阪でウミネコがいつ繁殖し始めてもおかしくなさそうです。
東京での繁殖が見つかった時、最初はビルの上にウミ
ネコが集まっているのが観察されていたようです。ビル
の上での営巣を確認するのはなかなか難しいですが、ビ
ルの上の集団を見つけるだけ簡単。街を歩いていて、5
〜7月にビルの上にウミネコの集団がいたら要注目です。
図2:大和川河口のウミネコの個体数の季節変動(2012年度).
6〜 11月にのみ記録された
桑原和之・田中利彦・田久保晴孝・箕輪義降・嶋田哲郎(1994)千
葉県船橋市船橋中央埠頭の鳥類相と個体数変動 我孫子市鳥の博
物館調査研究報告,3:3770.
松丸一郎(2012)ビルの屋Lから池の中の島に営巣地を移動した東
京不忍池のウミネコ Urban Birds,29:821.
松丸一郎・渡辺 浩(2011)隣接するビルの屋上に集団を形成した
東京不忍池のウミネコ.Urban Bilds,28:2744
箕輪義隆・桑原和之・嶋田哲郎(1999)東京湾海上の鳥類相 Strix,
17 : 31-41
和田 岳(わだ たけし):本会幹事、大阪市立自然史博物館学芸員。
HP「和田の鳥小屋」