ゴールデンウィークが過ぎると、春の小鳥の渡りは一段落。遅めに渡る鳥もいるけど、大阪の都市公園はめっきり寂しくなります。でも、公園で繁殖する鳥たちは、繁殖最盛期に突入。巣立ちビナを連れていたり、エサを運んでいたり。今回はそんな都市公園の鳥に注目しましょう。テーマは都市公園で繁殖する鳥の種数です。
都市の鳥の多くは、都市環境の中でも、公園を主とする都市緑地で繁殖しています。じゃあ、どんな都市緑地でなら多くの種が繁殖するのでしょう。
一番よく指摘される傾向は、広い公園ほど多くの種が繁殖しているというものです。樋口ほか(1982)は、関東の都市周辺の緑地51ヶ所で繁殖期の鳥を調査して、林の面積が広いほど、林で繁殖する鳥の種数が多い事を示しました。和田(1999)も、大阪市内41ヶ所の公園で調査した結果、林が広い公園ほど多くの林の鳥が記録されたことを報告しています。
Natuhara & Imai(1999)は、大阪平野の緑地を調査した結果を解析し、大阪平野周囲の山林からの距離が、緑地の繁殖期の種数に影響していることを示しました。連続した山林に近いほど、多くの種がいるという事です。
シジュウカラ(井上・夏原2005)やコゲラ(濱尾ほか2006)の分布についても、樹林の面積や、周囲の山林からの距離の影響を指摘した研究があります。
ところで、現在大阪市内で年中普通に見かけるキジバト、ヒヨドリ、ハシブトガラスは、以前は大阪市内では繁殖していませんでした。かつてはムクドリも局所的にしかいなかったようです。コゲラ、シジュウカラ、メジロ、カワラヒワが大阪市内で繁殖するようになったのは、おおよそ1980年代以降のことです。
上で紹介した広い公園、山に近い公園で多くの種が繁殖するというのは、あくまでも調査時点での分布パターンに過ぎません。そのパターンは時間と共に変化する可能性があります。
和田(1999)は、古くに大阪市内で繁殖を始めた種ほど、多くの公園に分布しているというパターンを見いだしました。このことから、大阪市内に進出した種は、時間と共に広がっていくと予想しています。その後の調査で、コゲラ、シジュウカラ、ハシブトガラスなどの分布が、実際に5年10年の間に広がっていることが確認されています(大阪鳥類研究グループ、未発表)。その間に、公園面積や林面積の目立った変化はありませんでした。
とくに面積変化のない公園であっても、数年で繁殖種数は変化しました。これを考えると、少なくとも都市緑地においては、現在の分布パターンだけから、長持ちする分布予測モデルは作れないってことになります。むしろ鳥類相の変遷を考慮して、将来の分布を考えた方がよさそうです。
大阪の都市公園で繁殖する鳥は、これからもまだまだ増えると思っています。ヤマガラは、すでに大阪平野の周辺部には進出していて、近い将来大阪市内にも到達するかもしれません。キビタキは、山から丘陵、そして平地の林と、徐々に進出している気配があります。
比較的短い間でどんどん変わるという意味で、都市公園はとても面白い観察地です。ぜひ近所の公園で繁殖している鳥に注目してみてください。思わぬ鳥が思わぬ場所で繁殖しているかもしれません。
井上奈 子・夏原由博(2005)樹木面積率の異なる都市緑地におけるシジュウカラの繁殖成功の比較.ランドスケープ研究 68(5):551-554.
Natsuhara, Y. & C. Imai(1999)Prediction of species richness of breeding birds by landscape-level factors of urban woods in Osaka Prefecture, Japan. Biodiversity and Conservation 8:239-253.
濱尾章二・山下大和・山口典之・上田恵介(2006)都市緑地におけるコゲラの生息に関わる要因.日本鳥学会誌 55(2):96-101.
樋口広芳・塚本洋三・花輪伸一・武田宗也(1982)森林面積と鳥の種数との関係.Strix 1:70-78.
和田 岳(わだ たけし):本会幹事、大阪市立自然史博物館学芸員。
HP「和田の鳥小屋」